8020運動と緑内障(視神経の寿命について)
2012.07.06 緑内障
内覧会や開業のイベントが過ぎて、院内もだんだんと落ち着いてきました。スタッフも電子カルテにだんだん慣れてきて、受付時間がみるみる短くなってきています。
再来週には手術も始まるので、念入りに準備しています。白内障の手術機械は大学と同じで慣れているものなので、以前と同じように手術が出来るのが嬉しいです。
8020運動と緑内障(視神経の寿命について)
先日妻と歯医者に行ったところ、院長先生に8020運動について伺いました。
現在日本では80歳で平均7本程度の歯しか残っていないそうです。
年齢ごとの歯の状態シミュレーションを見せていただきましたが、年を重ねるごとにみるみる歯が減っていく様子が衝撃的でした。
インターネットで調べましたが、40代あたりから徐々に歯が減っていくのですね。
眼科医の私としては、このグラフを見ると緑内障に於ける視神経の数を連想します。40代というと眼科的には20人にひとり緑内障がいる、という年齢です。緑内障の場合、目の神経線維の本数が減少しているはずなのですが、神経繊維の本数は数えることができません。
そこで、緑内障診療では視野の広さを計測することで、神経線維が傷んでいるかを調べます。
① 緑内障の治療をしなかった場合
② 緑内障の治療開始が遅かった場合
③ 早くから緑内障の治療をした場合
歯の本数の場合、40代位から減少しているわけですが、目の神経線維が何歳くらいから減っているかはよくわかりません。というのも、神経がある程度ダメージを受けないと視野が減少しないからです。
緑内障の場合、徐々に神経線維が傷むのですが、昔は人の寿命が短かったので生活に支障が出ないまま寿命が来ていました。しかし、現在では人の寿命がかなり長くなったため、生活に支障のあるレベルまで神経線維が傷む人が増えた、ということです。
緑内障は治療をしても神経が再生することはありません。そのため、緑内障の診療はいかにして神経の寿命を延ばすか、ということになります。点眼などに寄って緑内障の悪化が緩やかになったとしても、治療の開始が遅ければ②のように結局は生活に支障がでることになります。
緑内障治療のゴールは「目の状態を生活に支障のないままに保って人生を全うすること」です。そのため、③のように早期に治療を開始することで、目に不自由のない一生を送ることができるかもしれません。
40代になったら緑内障のチェックをしてみませんか?
緑内障はなんで気がつかないの?(マリオット盲点と虚性暗点)
2012.07.04 緑内障
この2日間は大盛況で、視力計や視野計がほぼフル稼働でした。
この2日診療していて思ったことが、緑内障患者の割合が多いことです。
日本人での失明原因1位の疾患なので、多くて当然なのですが、それにしても多いなと感じました。
緑内障診療は、患者さんと情報を共有することが難しいと感じることが多いです。
それなので、しばらくは緑内障について、分かりやすく書いていきたいと思います。
緑内障はなんで気がつかないの?(マリオット盲点と虚性暗点)
下の写真は視野検査の結果です。
右目の視野ですが、左上が欠けています。
視野の4分の1以上が欠けているにもかかわらず、この患者さんは見えにくいことに気がつきませんでした。
視野検査の結果では見えにくいところが黒く表示されるので、「緑内障になったら視野の中で暗っぽい部分が出るに違いない」と思っている人もいるのですが、実際にはそんなことはありません。
緑内障のように、「視野が欠けていても気がつかない」ということを「虚性暗点」といいます。(暗点=見えない部分)
反対に、網膜剥離という病気では「緞帳が下から上に上がってくるように見えない部分が広がってきた」と訴えて病院を受診する方もいらっしゃるのですが、これを「実性暗点」といいます。
実は、緑内障でない健康な人でも虚性暗点は自覚することが出来ます。
「マリオット盲点」と言って、人間は誰しも見えない部分を持っています。
青の矢印の部分がそうなのですが、両眼とも中心(目を向けている方向)よりも外側15度に盲点があります。
これは、視神経が目の中に出入りする部分(視神経乳頭)に一致します。(下写真の矢印)
マリオット盲点の検出方法は、一般的には下の図のようなものを用いて行います。
下の図をクリックすると丸と三角が表示されると思います。
右眼で赤いマルを見ながら画面に近づいたり遠ざかったりしてみると、ある場所で緑の三角が見えなくなります。
以前看護学科で授業をしたときにこれをやったところ、皆さんびっくりしていました。
緑内障の患者さんにこれをやると、やはり皆さんびっくりします。
「虚性暗点を理解すること」は緑内障診療の第1歩かもしれませんね。